旦那は『愛宕山』に登っても一八が可愛くて仕方ない

 想定外のアイデアで戻ってきた一八は、迂闊にも置いてきちゃったお金以上のものをゲットしたと思う。旦那はきっと、投げたのと同じ数の小判に羽織りの一枚も加えて、一八にやったよ。ホントに嫌だったらとっくに出入り止めだろうし、第一京都くんだりまで連れてこないって。お酒にだらしなくて欲張り、その上なんでも「そんなの朝めし前ですよ」とほざくけど、どっか憎めない。それどころか可愛いくて仕方ないんじゃないかと思う。
 そんな奴だから、ろくな芸もないかも知れない。贔屓のお客もチョビっと。あの旦那をしくじったら、身を置く場所もない芸人じゃないの? しかもそのダメなところを隠そうともしない。ちょっと『富久』めいてる。その欠点だらけが、旦那にはたまらない。
 粋に豪奢に遊ぶ身分になるには、それ相当の苦労を重ねてきたろう。若い頃は寝る間も惜しんで、人様が遊んでる時も脇目もふらず働いてきての、優雅なお大尽遊び。そんな人生の勝者から見たら、芸人の人生なんか考えも及ばない。自分には微塵もない人生を自由に飄々と生きる男を、どこかで逆に羨んでいるような気がする。
 一八の破天荒は、確かに金に目が眩んでの所業だろうけど、「命より金」って芝居を演じたようにも見える。たった一人のお客のために、命がけの一人芝居をやってのける男、しかもちゃんとオチを付ける憎いヤツ。江戸に帰った旦那は、きっと寄り合いや宴席で話すんだよ。「あの一八がね、ふふふ……」って。だって史上最強の滑らない話だもん。「へ〜、馬鹿だね、ちょっと呼んどくれよっ!」ってなもんでしょ。美味しいぞ、一八!

by go-go-shiosenbe | 2011-04-21 16:49

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